現在、建築業界は未曾有の混乱の中にあります。ホルムズ海峡の情勢不安に端を発した石油関連資材の暴騰、そして深刻な品不足。現場では「見積もりが出せない」「工期が約束できない」という悲鳴が上がっています。
断熱材、塗料、接着剤、塩ビ管……。現代建築の根幹を支える石油化学製品(ナフサ由来製品)が、文字通り「蛇口を締められた」状態です。
「建てる」を一旦、止める勇気
この状況下で、無理に工事請負契約を結ぶことは、施主・施工者双方にとって極めて高いリスクを伴います。私は今、あえて「無理に建てない」という選択肢を提示したいと考えています。
建築士の仕事は、図面を引き、工事を監理することだけではありません。
不測の事態において、お客様の資産をいかに守り、最適化するか。その「道筋」を示すことこそが、今求められている建築士の価値です。
工事の代わりに、今なすべきこと
資材が安定するまでの期間、私たちは「建てる」ことから「整える」ことへ、大きく舵を切るべきだと考えています。
- 既存資産の「徹底的な延命」と「適正化」
新築が難しい今だからこそ、手元の建物の価値を再定義します。法的な不備を解消し、資産としての流動性を高める「建物診断」は、資材を一切使わずに企業の体質を強化します。
- エネルギーコストの外科手術
石油価格の高騰は、工場の運営費を直撃しています。高価な石油由来の断熱材に頼らずとも、パッシブな手法(自然光や風の利用)や運用改善によって、LCC(ライフサイクルコスト)を劇的に下げる提案が可能です。
- 「戦略」としての補助金活用
政府の支援策を単なる「足し前」ではなく、事業再構築の「種銭」として活用するための技術コンサルティング。これには高度な建築的知見が不可欠です。
【専門用語解説:LCC(ライフサイクルコスト)】
建物を建てる費用(イニシャルコスト)だけでなく、維持管理、光熱費、解体に至るまで、建物の一生にかかる総費用のこと。資材高騰の今、この視点なしに建築を語ることはできません。
結びに代えて
「先が見えない」と嘆くのではなく、先が見えないからこそ、確かな知見に基づいた「羅針盤」が必要です。
一級建築士事務所として、私たちはこの難局を乗り越えるための「思考の壁打ち相手」であり続けたい。工事という手段が制限されている今、私たちの「知識」と「経験」を、皆様の経営の盾としてお使いください。