「赤い紙が貼られた=建物を壊さないといけない」ではありません
~地震のあとの「危険度判定」、正しく知っていますか?~
はじめに
大きな地震が起きたあと、街の建物に「赤」「黄」「緑」の紙が貼られているのを、ニュースなどで見たことはありませんか。
もし自分の会社の建物や、持っている賃貸マンションの入り口に「赤(危険)」の紙が貼られたら、どう感じるでしょうか。多くの方が「もうこの建物は終わりだ」「壊すしかないのか」とショックを受け、パニックになってしまいます。
しかし、建物のことを長年見てきた建築士の立場からはっきりお伝えします。
「赤い紙が貼られた」ことと、「その建物を壊さなければいけない」ことは、イコールではありません。
この紙の本当の意味を知らないまま慌てて解体してしまうと、本当は直して使い続けられたはずの大切な建物を、必要以上に失ってしまうことになりかねません。今日は、地震のあとに知っておいてほしい「建物の判定」の仕組みについて、できるだけやさしい言葉でお話しします。
- 実は2種類ある「建物のチェック」
地震のあと、建物に関する紙やお知らせが2種類あることをご存じでしょうか。この2つが混同されてしまうことが、誤解の一番の原因です。
ひとつ目は「応急危険度判定」。これは玄関などに貼られる赤・黄・緑の紙のことです。 これは、大きな地震の直後に、建築士などのボランティアの方が街を回って、建物をひとつずつ短時間で見てまわる調査です。目的はただひとつ、「この建物に近づいても、余震でケガをしないか」を確かめることです。いわば、危険な工事現場に貼ってある「立入禁止」の看板と同じようなものだと考えてください。
ふたつ目は「罹災証明(りさいしょうめい)のための被害認定」です。 こちらは、市区町村の職員の方が、支援金や税金の減免、ローンの支援などを受けるために、「どのくらい建物が壊れたか」をきちんと調べる制度です。判定結果は「全壊」「大規模半壊」「半壊」などの言葉で表されます。
つまり、玄関に貼られる赤・黄・緑の紙は「今すぐ危ないかどうか」を教えてくれるものであって、「その建物がもう使えないかどうか」を決めるものではないのです。
赤い紙の本当の意味は、「詳しい調査が終わるまでは、念のため近づかないでください」という注意書きに過ぎません。壁や柱がどのくらい傷んでいるか、修理すれば使い続けられるかどうかは、赤い紙だけでは分からないのです。
- 本当に注意すべきは「壁のひび」より「建物の傾き」
では、建物が地震のあとも安全に使えるかどうかは、どこを見て判断すればよいのでしょうか。
壁にひびが入っていても、慌てなくて大丈夫な場合があります。 見た目にはとても心配になりますが、そのひびが表面のモルタルや仕上げの部分だけのものであれば、建物を支えている柱や梁(はり)そのものは無事、というケースは少なくありません。この場合は、補修によって元通り使えることが多いです。
一方で、注意したいのは「建物の傾き」です。 地面が地震で液状化したり、地盤が不ぞろいに沈んだりすることで、建物全体が少し傾いてしまうことがあります。この傾きが一定の基準を超えると、たとえ壁にひびがほとんど見えなくても、「もう住めない・使えない」という厳しい判定になることがあります。傾いた建物の中で過ごし続けると、体調に影響が出ることも分かっているためです。
つまり、建物そのものの強さだけでなく、「建物の足元、つまり地盤と基礎がまっすぐ立っているかどうか」が、実はとても重要な判断材料になっているのです。
- もし赤・黄の紙が貼られたら。慌てないための3つのステップ
もし自分の会社の建物や所有している不動産に赤や黄の紙が貼られてしまったら、どう行動すればよいのでしょうか。落ち着いて進めるための3つのステップをご紹介します。
ステップ1:まずは指示に従い、無理に中に入らない
赤い紙が貼られた直後は、余震によって建物が崩れたり、タイルや室外機が落ちてきたりする危険がまだ残っています。まずは安全を第一に考え、指示があるまでは無理に中に入らないようにしましょう。
ステップ2:建築士など専門家に「詳しい調査」を依頼する
行政による応急危険度判定は、あくまで外から見て数分から数十分で行う、簡単なチェックです。安全が確認できたら、次は信頼できる建築士や構造の専門家に依頼して、柱や梁の状態、基礎の状態などをじっくりと詳しく調べてもらいましょう。ここで初めて「このまま直して使えるかどうか」が分かります。
ステップ3:「直す」と「建て替える」、両方の費用をきちんと比べる
地盤の沈下や傾きが原因で赤い紙が貼られた場合でも、地盤を補修する工事によって建物の傾きを直し、そのまま使い続けられることがよくあります。しかも、その費用は建て替えに比べてずっと少なく済み、工期も短くなるケースが多いのです。「解体する」という結論を出すのは、こうした比較・検討をしっかり行ってからでも遅くはありません。
おわりに:正しい知識が、大切な資産を守ります
地震の直後は、誰もが気が動転してしまうものです。そんな中で、正しい知識がないまま「赤い紙=もう終わり」と思い込み、本当は直せたはずの大切な建物を手放してしまう。そうした残念なケースが、実際に後を絶ちません。
私たちは、建物の危険度を判定するだけでなく、地盤と建物の両方をきちんと調べたうえで、それぞれの状況に合った最適な修復の方法をご提案しています。
「建物を頑丈にしておくこと」と同じくらい、「正しい判定の仕組みを知り、いざというときに落ち着いて行動できるよう備えておくこと」も、とても大切な備えです。もしものときのために、ぜひ知識として心に留めておいてください。