その暑さ対策、実はまちを温めているかもしれません。過去の失敗を踏まえて
ヒートアイランド現象は、もう夏の風物詩のようになってしまいましたが、その本当の原因や対策について、少し立ち止まって考えてみませんか。
結論から言うと、ヒートアイランド現象を根本から和らげるには、都市にたまった熱を「遠くへ(宇宙や地中の奥深くへ)逃がしてあげる」ことがとても大切です。
その理想の形として、夏の熱を地中にためておいて、冬の暖房に使う、という「季節をまたいだ熱の活用」というアイデアがあります。とてもロマンのある発想ですよね。
ただ、この夢のようなアイデアを実際のビジネスや施設の運用に活かすには、これまでの取り組みから学べる教訓を、しっかり見つめ直す必要があります。
今日は、これまでいろいろな技術の移り変わりを見てきた立場から、季節をまたぐ蓄熱の「夢と現実」、そして今、企業が選ぶべき現実的な選択肢について、やさしくお話ししたいと思います。
〇 今の対策、実は逆効果かもしれません:「昼夜の時間差処理」の落とし穴
気象庁のデータを見ても分かる通り、都市部では夜の気温がなかなか下がらなくなっています。原因は、コンクリートが増えたことによる土地利用の変化と、エアコンなどからの人工的な排熱です。
今、対策として注目されているのが「遮熱」や「昼夜の時間差処理」(※1)です。ただ、遮熱は熱を反射しているだけなので、その熱は結局まわりの空間に散らばってしまいます。また、昼間の熱を蓄熱材にいったん抱えてもらって、夜に放出する方法は、電力のピーク需要を抑えるにはとても有効なのですが、都市全体に出ていく熱の総量そのものは変わりません。むしろ夜の気温上昇を後押ししてしまっている面もあり、本当の意味でのヒートアイランド対策とは言いきれないのが実情です。
〇 40年前に見た夢と、その先にあった現実:物理法則という大きな壁
では、もっと長いスパン、「一年を通じた時間差」を使ったらどうだろう、という発想もあります。実はこれ、今から40年ほど前、オイルショックの後の省エネブームの中で、大きく注目されたアイデアなんです。「夏の熱を建物の基礎の下、地中にためておいて、冬の暖房として使おう」という土壌蓄熱の考え方で、当時は建築の専門誌『ディテール』でも、画期的な地中配管の詳細図が特集されるほどの盛り上がりを見せました。
けれど、そのほとんどは実現には至りませんでした。理由はとてもシンプルで、そして少し切ないものです。半年という長い時間の中で、せっかく蓄えた熱は、まわりに広がる広大な土壌へと少しずつ逃げていってしまい、いざ冬を迎えるころには、ほとんど役に立たなくなっていたのです。竣工したときにはあれほど期待された最新技術も、規模の大きさを無視した熱の伝わり方という、自然の摂理の前では力及ばずだった、というわけです。
〇 最近の実証実験からも見えてきたこと:自然が相手だからこその難しさ
時代は進み、近年は地下水の層(帯水層)を大きな蓄熱槽として使う「帯水層蓄熱(ATES※2)」の実証実験が、国の予算も投じて行われています。ただ、ここでもやはり、自然を相手にすることの難しさが見えてきました。
たとえば大阪・うめきた地区では、地下の細かい泥などが井戸に入り込んでしまい、目詰まり(クロッギング)が発生。特別な再洗浄をしないと元の性能に戻らない、という出来事がありました。
また大阪・アミティ舞洲では、空気抜き弁の締め忘れという、ちょっとしたヒューマンエラーがきっかけで配管に酸素が入り込んでしまい、鉄分の酸化や鉄バクテリアの繁殖につながって、深刻な目詰まりを引き起こしてしまいました。その結果、なんと約3ヶ月もの間、システムを止めざるを得なくなってしまったそうです。
国の実験であれば、「洗浄してしばらく止めて復旧しました」で済むかもしれません。でも、これが民間企業の施設だったら、と考えるとどうでしょうか。「空調が3ヶ月も止まってしまう」「思いがけず高額なメンテナンス費用が発生する」というのは、長い目で見たコスト(LCC)や事業継続の計画(BCP)にとって、とても大きな痛手になってしまいます。地下の地質や水の流れを完全にコントロールすることは、やはりとても難しく、これが大規模な季節間蓄熱の一番の壁になっているんですね。
〇 では、どうすればいいのか:「確実な場所へ、熱を届けてあげる」という選択
こうしてみると、企業が自社の建築プロジェクトで目指すべき方向が見えてきます。不確実な自然を相手にした、大きく長い時間軸の蓄熱に賭けるのではなく、確実で、しかもすぐに効果が出る「熱を遠くへ届けてあげる」技術を取り入れることが、今できる現実的な最適解だと感じています。
- 足元から:地中への放熱(地中熱ヒートポンプ ※3)
大規模な帯水層蓄熱は難しくても、敷地の中で完結する、閉じた形の「地中熱利用」なら、十分に実現可能です。一年を通じて温度が安定している地中に、夏は熱を逃がしてあげて、冬は熱を汲み上げる。新築のときに基礎杭の工事とあわせて導入すれば、ハードルもぐっと下がり、安定したコスト削減が見込めます。
- さらに遠くへ:宇宙への放熱(放射冷却技術)
究極の「遠く」、それは地球の外です。昨年の大阪・関西万博でも話題になった「SPACECOOL」などの新素材は、吸収した熱を特定の赤外線の波長(大気の窓 ※4)に変換して、大気の外まで直接届けてくれます。昼間でも、エネルギーを使うことなく熱を宇宙へ逃がしてあげられる、とても革新的な技術です。
〇 熱の処理は、これからの大切な経営課題
耳ざわりのいいエコ技術の理想に、つい飛びついてしまう前に、自然のスケールの大きさや、維持管理にともなうリスクを、一度冷静に見極めてみることがとても大切だと感じています。ただ熱を反射するだけの対症療法から一歩進んで、最新の技術で熱を正しく「処理」してあげること。それは長い目で見たコストの大幅な削減にも、企業としての価値の向上にも、まっすぐつながっていきます。
熱をどう処理するか。これは、これからの時代に向き合う、立派な経営課題だと思うのです。
【専門用語のご紹介】 ※1 昼夜の時間差処理:潜熱蓄熱材(PCM)などを使って、昼間の熱をいったん吸収させ、気温が下がる夜に放熱させる技術です。 ※2 帯水層蓄熱(ATES:Aquifer Thermal Energy Storage):地下の帯水層から地下水を汲み上げ、熱交換をしたあとに別の井戸から地中に戻すことで、帯水層そのものを大きな蓄熱槽として使うしくみです。 ※3 地中熱ヒートポンプ:密閉した配管の中で不凍液などを循環させ、地中と熱交換をおこなって空調の熱源とするシステムです。地下水を直接汲み上げないため、目詰まりのリスクが低く、安定しています。 ※4 大気の窓:地球を覆う大気に吸収されずに、宇宙空間まで直接通り抜けることができる、特定の赤外線の波長帯(8〜13マイクロメートル付近)のことです。